北欧の島国・アイスランドは、1980年、世界で初めて「民選の女性大統領」を誕生させた国として知られています。
ヴィグディス・フィンボガドゥティル。
彼女の当選は、単なる政治的出来事ではなく、社会の価値観が静かに、しかし確かに変わり始めた象徴的な瞬間でした。
この歴史的な出来事を、子どもにも大人にも届くかたちで描いた絵本が、『世界ではじめての女性大統領のはなし』(ラウン・フリーゲンリング 作/朱位昌併 訳)。
やわらかな線で描かれたイラストと、簡潔で美しい言葉が重なり、
「なぜアイスランドで女性大統領が生まれたのか」
「その背景にどんな社会の空気があったのか」を、自然と理解できる構成になっています。
絵本が描く “変化のはじまり”
物語の中心にあるのは、フィンボガドゥティルが大統領に選ばれるまでの道のり。

彼女は演劇や教育の分野でキャリアを積み、政治家としての経験を持たないまま大統領選に挑みました。
それでも人々が彼女を選んだのは、
「平和を願う姿勢」
「文化への深い理解」
「市民に寄り添う言葉」
が、当時のアイスランド社会に必要とされていたから。
この絵本はそのプロセスを、難しい政治用語を使わず、“ひとりの女性が社会に希望をもたらすまでの物語”
として丁寧に描いています。子ども向けの絵本だが、大人がアイスランドの歴史を知るきっかけにもなるでしょう。

著者でありイラストも手掛けるラウン・フリーゲンリングは、アイスランドを拠点に活動する作家であり、子ども向けの物語から文化的テーマを扱う作品まで幅広く手がけています。
アイスランドの自然観や社会の価値観を、やわらかな語り口で物語に落とし込むことを得意とし、同国の文化を伝える書き手として国内外で高く評価されています。
本作でも、歴史的事実を子どもにも届く形で丁寧に伝え、アイスランドという国の精神性を静かに描き出しています。
翻訳者が語るアイスランドの背景
アイスランドの首都・レイキャヴィークは、アイスランドの南西部にあり、約14万人が暮らしています。

海沿いに位置し、カラフルな家並み、港、カフェ、図書館、ミュージアムが集まり、 自然と街がすぐ隣り合っているのが特徴。大統領府や国会など国の政治の中心地でもあります。
街から少し離れるとすぐ海・溶岩原・丘があり、 “自然と街が同居する”というアイスランドらしさが最もよく表れる場所。


絵本の後半では、今作を日本語訳した朱位昌併(あかくら しょうへい)さんにより、アイスランドの自然・文化・社会制度がわかりやすく紹介されています。
日本ではまだ十分に知られていない国の姿を、“絵本というやわらかな媒体”を通して知ることができる点も、この作品の大きな魅力てしょう。
秋の夜長に、絵本をひらきながらアイスランドの自然と社会を知る時間を持つのは、大人にとっても豊かな体験になるのではないでしょうか。
◆作・絵
ラウン・フリーゲンリング(Rán Flygenring)
アイスランド芸術大学でグラフィック・デザインを学び、 レイキャヴィーク市の公式イラストレーターを務めた経歴を持つ。 社会的テーマを子どもにもわかりやすく伝える作風で、 本作では文章とイラストの両方を手がけている。
◆ 訳・解説
朱位 昌併(あかくら しょうへい)
アイスランド在住。 アイスランド大学で翻訳学を学び、 アイスランド語翻訳者・詩人・アイスランド公認ツアーガイドとして活動。 本作では日本語訳を担当し、 後半には現地の自然・文化・社会制度についての解説を寄せている。
【データ】

世界ではじめての女性大統領のはなし
作:ラウン・フリーゲンリング 訳:朱位 昌併
出版元:平凡社
価格:2,090円(税込)

